太宰治晩年の傑作のひとつに「津軽」という小説があります。太宰がふるさとの津軽地方を訪れ、懐かしい人たちと旧交を温める話で、その端端で津軽地方の風土が語られています。2002年10月、小説「津軽」の舞台を訪ねる旅をしました。
この小説で最も興味深かったのは、三厩から竜飛崎までの情景を記したくだりです。太宰は「あたりの風景は何だか異様に凄くなって来た。凄愴とでもいう感じである。それは、もはや風景でなかった」と表現しています。
実際、バスで走っていても断崖とトンネルが続いており、その合間に小さな集落が姿を現します。太宰の時代を考えれば、行き来するのもたいへんな道だったに違いありません。そうしてたどり着いた竜飛集落。太宰はこう書いています。
「この鶏小屋に似た不思議な世界に落ち込み、そこに於いて諸君の路は全く尽きるのである」。袋小路のような光景は変わりませんが、漁村の生活感漂うのどかな集落で、私の第一印象は「最果てっぽくはないな」でした。